山口は「土着のサイエンス」というテーマで、参加者とともに考察を進めていきました。このテーマは山口情報芸術センター[YCAM]が2015年からはじめた「YCAMバイオ・リサーチ」の活動に端を発しています。バイオテクノロジーの応用可能性を地域の方々や国内外のアーティスト、研究者、クリエイターら、さまざまなコラボレーターと探究するプロジェクトです。
参加チームは、自社の遺伝子検査技術を活用した教育プログラムの開発を目指す“StepX”、拡張生態系という手法のもと、人間活動によって環境を回復させる社会の実現を目指す”シネコバーナ”、ともに山口県の出身者がメンバーにおり、地方都市におけるキャリア形成のあり方や科学教育に課題感を持つ“Kyogu”と“熱球”、遊びと学びの境界を探り、都市への介入を試みる国際色豊かなクリエイティブユニット“Playground” 、直島、犬島をはじめとする瀬戸内地域で芸術文化活動を行う“Remote island”。到底一括りにできないユニークなバックグラウンドとモチベーションを持った構成で、それぞれの「土着性」を持った多様なメンバーが全国から集まりました。
一見、異なるものを目指しているように見える各チームですが、どのチームも共通して、人同士が集い継続的に活動していく「コミュニティ」や「コミュニケーション」のかたちを追い求めているように感じました。初回、テーマ講師の遠藤幹子さんのレクチャーでは自身がアフリカ・ザンビアに建設した「マタニティハウス」を例に、コミュニティが生まれ、生活に根付いていく上で、建物だけではなく、共同体に対して、設計を行う際の手つきを詳らかに紹介していただきました。また地方創生の好事例で知られる西粟倉村の上山隆浩さんのレクチャーでは、地域資源を活用した循環型社会の先進的・実践的な取り組みが紹介され、人やアイデアの流入、またそれらを支えるビジネスモデルなど、マクロな視座を提供していただきました。初期の段階では抽象的だった、コミュニティ形成の全体像や継続性に対するイメージが、参加者の中で次第に整理され、ウェビナーを追うごとにアイデアがブラッシュアップされていきました。
現地成果報告会の最終プレゼンテーションでは、各チームのアイデアは社会実装の一歩手前まで仕上がっており、非常にレベルの高い内容でした。そもそものチームの土台があったとはいえ、網羅的なウェビナーの内容をうまく咀嚼し、各々の課題への理解を深めることができていました。今回、YCAMバイオ・リサーチのメンバーはメンターの役割として参加しましたが、参加者との対話を進めるなかで、自分たちの活動へのフィードバックにもなり得るたくさんの刺激を受けました。YCAMが謳う「ともにつくり、ともに学ぶ」の理念をmigakibaの事業を通じて表現できたことをうれしく思います。
事務局代表
山口情報芸術センター [YCAM]
社会共創ディレクター 菅沼 聖
現地事務局&現地チームメンバー
津田和俊
山口情報芸術センター[YCAM] 研究員 / 京都工芸繊維大学デザイン・建築学系講師
高原 文江
山口情報芸術センター [YCAM] / 照明デザイナー
伊藤 隆之
山口情報芸術センター [YCAM] / R&Dディレクター
朴 鈴子
(株)Office PARK副代表 / 元山口情報芸術センター [YCAM] エデュケーター
Field Tour山口で見てきた場所
山口情報芸術センター[YCAM]の施設案内からはじまり、施設ができた経緯や地域での役割について、ご紹介いただきました。また併設する山口市中央図書館との関係性や、地域住民とメディアアートやバイオ・リサーチとをつなぐ空間の設計など、日常生活の中でどのようにYCAMの活動と地域が結びついていくかを日々実験している様子を視察できました。またメンタリングDayでは各チームと現地事務局メンバー全員が向き合い対話する時間をつくり、アイデアの構築がさらに加速しました。
Lecturer山口で話を聞いた人
オリエンテーションでは歌や遊びを介した市民参加型の制作を行う美術建築家・遠藤幹子さんにお話を伺いました。持続的に地域に資源が残り、アップデートされていくための、地域住民の巻き込み方(「見えないハシゴ」のかけ方)や関わり方について、自身の経験をもとに共有いただきました。また西粟倉村・上山参事からは「上質な田舎」と題した、地域資源を長期的目線で活用する、同村のこれまでの活動と展望を共有していただき、参加者にとって大きな励みとなりました。
テーマ講師
遠藤 幹子
建築家/一般社団法人マザー・アーキテクチュア代表理事
環境講師
上山 隆浩
岡山県西粟倉村 地方創生特任参事
Presentation現地成果報告会
山口の現地成果報告会は、山口情報芸術センター[YCAM]内にあるバイオラボをメイン会場とし、オンラインでそれぞれのメンバーが参加。また今回のmigakibaメンバー以外のYCAMの職員やメンバーも報告会に参加しました。
参加チームの発表は期間中に重ねてきた議論やリサーチがしっかりと反映された、素晴らしいものばかりでした。領域の第一線で活躍する方へのインタビュー、プロトタイプづくり、公共空間での実験など、それぞれのユニークな着眼点から、実際に自分たちで手を動かし、アイデアを構築していくプロセスがとても多様なアイデアを生んだと会場からも絶賛の声が上がりました。
後半のトークセッションでは、山口のテーマである「土着のサイエンス」の背景について、改めて参加チームへ共有しました。「... 持続そのものではなく、何をおいても持続させなければならない価値とは何かという問いから、それは始まる」という哲学者・鷲田清一さんの言葉を引用し、問いを立て続けること、そのために小さく始められることを見つけること、そして必ずアーカイブを残すことを参加チームへのアドバイスとして送り、報告会を終了しました。
地域レポート
01: 東北・福島県いわき市
風景はいかにして耕されるのか?
潮目のまちから考えたこと
事務局代表
地域活性化プロジェクト MUSUBU
代表 宮本 英実
02: 中部・長野県上田市
上田の暮らしから育む
小さな創造性の芽
事務局代表
株式会社バリューブックス
池上幸恵
03: 近畿・奈良県香芝市
「郊外」の輪郭をたどり
ともに未来を考える
事務局代表
一般財団法人たんぽぽの家
常務理事 岡部 太郎
04: 中国・山口県山口市
土着のコミュニティから
テクノロジーの応用可能性を探る
事務局代表
山口情報芸術センター [YCAM]
社会共創ディレクター 菅沼 聖
05: 九州・長崎県五島市
土地と人との間から
何かが生まれる最初の一歩
事務局代表
五島の巡礼を考える会
中村 直史