写真:migakiba kashibaで実施したオンラインフィールドツアーの様子。現地チームの松本さんが、奈良で起こした薬草ハーブを使った事業の説明をしており、そのパソコンの画面が映っています。

全体レポート

これからの循環を考える
90日間の記録

2023年度プログラム

migakiba 2023-2024では全国各地から多様な背景・専門性をもった15チーム50名の参加者が集まりました。現地でのフィールドワークとウェビナーを経て、どのようにプロジェクトを生み出してきたのか。各地を担当した全体事務局メンバーの視点を織り交ぜながら、約90日間の活動をまとめました。

参加者公募イベント

滋賀県長浜市現地事務局代表の荒井恵梨子さんより、長浜地域の概要についてご紹介しているZoomの画面が写っています。

今年度の参加者公募イベントは2地域を横断してオンラインで実施。前半では2地域の現地事務局代表より地域のプレゼンテーションを行い、地域で感じている機会や課題と参加者へ期待することをお話しました。後半ではmigakiba2期にて広島県呉市での現地事務局メンターを担当し、3期には群馬県長野原町北軽井沢に参加した卒業生2名とディレクターの白井によるダイアローグを実施しました。

1オリエンテーション

長浜エリアの環境講師である琵琶湖博物館の学芸員、橋本道範さんがレクチャーをしている様子。

2エリア合同で行った前半は、主催である環境省よりご挨拶ののち、migakibaのプログラムに関する説明を実施。各地域に分かれた後半では、環境講師からのレクチャーがありました。長浜では、琵琶湖博物館の学芸員である橋本道範さんより、琵琶湖とフナズシなど地域食文化との関係性を歴史を辿りながらご説明いただきました。歴史を概観すると両者の関係性は常に変化してきたことがわかり、これからの暮らしや文化を構想するmigakibaらしいスタートを切ることが出来ました。

ウェビナーで参加者同士が交流している様子。事務局長の荒井さんが環境講師の橋本さんを紹介している様子。イカハッチン・プロダクションが制作している雑誌について荒井さんが説明している様子。

Voice多層的な歴史の営みを知る

長浜エリアの環境講師である橋本道範さんの講演は、水資源としての琵琶湖のみならず、人と自然とのつながりを改めて感じさせられ、時間的にも空間的にもスケールが大きく広がり、ワクワクするお話でした。長年の調査をもとに、古来から琵琶湖が人々の営みのそばにあったことを明らかにされるだけでなく、ご自身も実際にフナズシを漬けながら、多層的な歴史の営みを体感されていらっしゃる姿に、私を含め参加者一同、驚きの連続でした。豊かな自然と人間の営みを育む長浜の一端を知り、これからはじまるmigakibaプログラムへの期待が一層高まるオリエンテーションになりました。

長浜エリア担当清水淳史写真

清水 淳史

長浜担当

2フィールドワーク事前映像

長浜担当・清水と、現地事務局代表の荒井さんが長浜中心部の黒壁スクエアをめぐる事前映像を撮影している様子。

地域の風景や現地事務局の活動、各地域のテーマで先駆的に活動をする人のインタビューを撮影した映像を共有。また、これからチームごとにリサーチとプロジェクトづくりをしていく上での切り口となる「初期視点」のつくり方に関するレクチャー動画を同時に配信し、動画から得た気づきとそれぞれの興味・関心とを掛け合わせることで各チームの初期視点を考えました。

3地域別ウェビナー(1)

テーマ講師の堀江さんが自己紹介をしている様子。

長浜エリアでは、テーマ講師の堀江昌史(まさみ)さんによるレクチャーを実施。ご自身が移住者として地域に入り行っている、なれずしの研究やお弁当づくりを中心にお話をいただきました。地元の魚や野菜をおいしく食べてもらうことが、地域の湖や田畑に関心を持ってもらうこと、そして湖北の風景を守ることにつながる、堀江さんの一貫した活動とメッセージを受け取りました。質疑応答では、移住者である「嫁」が地域の伝統を守ってきた大事な存在であったという堀江さんからの問題提起を受けて積極的な議論がなされました。

4参加者フィールドワーク

分別されたゴミを回収し、資源へと変える「そおリサイクルセンター」を参加者が見学しています。

大崎町エリアでは1泊2日のフィールドワークが行われました。初日は大崎リサイクルシステム構築の発端となり、40年以上の延命化に成功した埋立処分場を見学。その後、地域で排出されるゴミの60%以上を占める生ゴミや草木などの有機物を発酵の力で堆肥にする大崎有機工場や、分別されたゴミを回収し、資源として使いなおせるよう中間処理を行う「そおリサイクルセンター」をめぐり、住民・企業・行政によって磨かれてきた資源をまわす知恵を学びました。また、代表的地域産業である農畜産業や飼料などを海外から受け入れる志布志港の港湾・飼料倉庫を見学し、地域が大きな物流とともに成り立っている側面も改めて認識しました。2日目は、クリエイティブなアプローチで環境問題に取り組む「若潮酒造」や耕作放棄地の土壌を活かした有機農業を試みるプロジェクト、今年オープン予定の体験型宿泊施設「circular village hostel GURURI」などの現場で、実践する方々に直接お話を伺いました。各チームの興味関心を把握しながら、チーム間の交流もでき、実りのあるフィールドワークとなりました。

若潮酒造で経営戦略を担う参加者に、他の参加者が酒造の中を案内していただいています。耕作放棄地を有機野菜の畑に再生する活動を行う参加者が、畑にて他の参加者に説明しています。まもなくオープン予定の体験型宿泊施設GURURIにて、地域内・地域外の参加者が話し合いながら見学しています。

Voiceラベルを越えて地域を立体的に捉える

大きなものの流れに組み込まれた大崎町の姿、その中に構築された地域内で資源を回す仕組み、そして新たに生まれたサーキュラー事業など、視点の高さや角度を変えながら地域をめぐりました。また埋立地のほのかにツンとした匂い、有機工場の草木と発酵の香りや温かさなど、身体で感じとることも多くありました。地域内・外の参加者が集った今回のフィールドワークでは、案内する者とされる者の役回りも曖昧になり、会話を通して異なる視点を共有しながらめぐれたこともポイントです。「リサイクル率NO.1」という看板にとどまらず、大崎町のリアルな姿をより立体的に捉えることができたと感じます。

大崎町エリア担当田北雛子の写真

田北 雛子

大崎担当

5全体ウェビナー(1)

大崎地域の参加者が独自のイラストを使いながら初期視点についての発表をしています。

全体ウェビナー(1)は、大崎町・長浜の2地域のブレイクアウトルームを設けて開催。お互いの地域での発表を聞きにいくことができる仕組みで実施しました。フィールドワークで実際に現地を訪れて得た学びや発見、それを経て初期視点がどうアップデートされたかについて、写真や記録を用いながらチームごとに発表しました。感じたことを言語化し、共有することで、アイデアを磨いていくための第一歩となりました。

6地域別ウェビナー(2)

TAの寺井正幸さんが、過去参加者としての経験をもとにチームへアドバイスしている様子。

前回からアップデートしたチームの初期視点をもとに考えてきたアイデアを、各チーム7分でプレゼンテーション。フィールドワークでの体験を起点として自分たちのパッションの深堀りが出来ているチームも多くありました。教科書的な「〜すべき」という視点から脱却してきれていないチームに対しては、「自分やチームの想いにもう一回潜ってみては?」といった自らのmigakiba参加経験にもとづいたTAからのアドバイスをいただきました。. 理事・事務局長の鈴木敦子さんを迎えクロストークを展開。懇親会では世代や地域を超えた交流を通して、新たな創発が期待される活気に満ちた時間となりました。

7全体ウェビナー(2)

クリエイブル代表瀬川秀樹さんによるメンタリングの様子。参加者のアイデアシートを見ながら、瀬川さんがアドバイスをしている様子が映っています。

初期視点にもとづくアイデアを具体的な事業として展開するための事業化ウェビナー。今年度もクリエイブル代表の瀬川秀樹さんを講師にお呼びし、パッションを基点に持続的な事業をつくるためのビジネスプランや対象顧客と課題の設定についてレクチャーをしていただきました。瀬川さんのレクチャーの後半では、希望チームに対してメンタリングの時間があり、各チームは、自身の現在地を共有しながら顧客の設定や考えているサービスについて瀬川さんにアドバイスをいただきました。

8全体ウェビナー(3)

事業化講師の高岡さんが、「XなのでYができるZです。」というコンセプトの構造を説明しています。

数多くの企業の創業支援に伴走してきたGOB Incubation Partners代表取締役社長の高岡泰仁さんを講師に迎え、事業の軸となるコンセプトづくりや市場、顧客、商品の考え方について学ぶレクチャーと演習を実施していただきました。自分たちがつくりたい世界観に、今一度立ち返って、各チームが考えてきた事業アイデアを磨き合い、解像度が低い部分や考えが及んでいなかった部分を整理していく時間となりました。

9地域別ウェビナー(3)

チームがスライドを用いてコンセプトの発表をしています。

現地報告会前最後のウェビナーでは、これまでチームで磨いてきたアイデアを最終発表と同じ形式で、各チーム7分間ずつ発表しました。ペルソナを絞り込み、プロジェクトのコンセプトをつくる2回の事業化ウェビナーを経て、一気に具体化したプロジェクト案。大崎町では、練り上げてきたイベントの告知を開始するチームも見られ、現地報告会はもちろんのこと、その先の実践への期待も高まるウェビナーとなりました。

10現地報告会

大崎町の現地報告会でアイデアを発表する参加者3人の様子です。

約90日間を通して磨き上げてきたプロジェクトを、地域のみなさんに向けて発表するハイブリッド形式の現地報告会。大崎町では、チームの資源とリサイクルにとどまらない大崎町の魅力をうまく掛け合わせた多様なアイデアが発表され、「循環」から派生する文化が見えてくるようなセッションに。後半のトークセッションでは、migakibaでの活動を振り返った感想や、実践フェーズでのポイントについて事務局メンバーとゲストコメンテーターに語っていただきました。migakibaで得た繋がりを活用し、チームに足りない部分を補うことやアイデアに熱を注ぎつづけることなど、たくさんのヒントをいただき、次のステップへの期待が高まる会となりました。

11全体発表会

全体発表会で会場にて、発表する長浜市代表チームのIMチームのふたりがマイクを持って、発表している様子です。

2地域からそれぞれ2つの代表チームがプロジェクト案を発表する全体発表会は、会場のTOKYO TORCH常盤橋タワー MY Shokudo Hall & Kitchenと、オンラインの発表者・参加者とをつなぐハイブリッド形式で開催しました。ゲストコメンテーターには過去に現地事務局のメンターを務めていただいた国際教養大学准教授の工藤尚悟さんと株式会社ROOTS共同代表の曽緋蘭さんを迎え、参加者の思いに共感しながら、事業としての可能性をさらに開いていくフィードバックをいただきました。後半では、オンラインで過去のmigakiba参加者からの卒業後の活動報告を受けた後、ゲストアドバイザーによるトークセッションを実施しました。トークセッションでは、ゲストコメンテーターのおふたりに、migakibaディレクターの田村大が加わり、都市と地域で活動する際の考え方の違いや、そのギャップをつないできた現地事務局の役割などについて議論を深める場となりました。
また会場ではオンライン配信終了後に、交流会を実施。今期の参加者や卒業生、現地事務局代表なども交え、4期にわたるmigakibaの振り返りや今後の活動にもつながる機会となりました。

全体発表会にて、発表する大崎町代表inspireチームの写真。大きなスクリーンを前に、マイクを持って、動脈産業と静脈産業をつなぐ新人研修企画について話しています。代表チームのプレゼンテーションにフィードバックするゲストアドバイザーの工藤尚悟さん。左にはmigakibaディレクターの田村大、右にはゲストアドバイザーの曽緋蘭さんが座っています。全体発表会会場での集合写真。参加者や卒業生、ゲストアドバイザー、現地事務局代表、事務局メンバー、環境省担当者など20数名が笑顔で写っています。全体発表会会場での集合写真。参加者や卒業生、ゲストアドバイザー、現地事務局代表、事務局メンバー、環境省担当者など20数名が笑顔で写っています。全体発表会会場での集合写真。参加者や卒業生、ゲストアドバイザー、現地事務局代表、事務局メンバー、環境省担当者など20数名が笑顔で写っています。

Voice循環をひらく

全体発表会では、先人が培ってきた自然資源や文化資本を現在の豊かさへとつなぎこもうとする長浜チーム、地域の資源循環を起点に町内の住民同士や地域を超えたつながりを生み出そうとする大崎チーム、それぞれの参加者が長浜・大崎との出会いから呼び起こされた想いを表現した事業アイデアを発表しました。

自立分散や地産地消など「循環」は時に、小さく閉じていく印象を持たれがちです。しかし、今年度のmigakibaを経て、豊かな循環社会の実現には、歴史と現在をつなぐ縦軸の循環や地域の中をつなぐ横軸の循環、それぞれのつながりの輪を広げることが欠かせないと感じました。そして、この輪に入り込みながら、それらを丁寧にひらき、新たにつなぎ合わせていくのは、migakibaを通じて、地域やそこで暮らす人に出会い、このつながりを広げていきたいという想いをもった参加者一人ひとりだと思います。こうした循環の起点とつながりがmigakibaから確実に生まれてきていることを実感した発表会になりました。

長浜エリア担当鈴木敦写真

鈴木 敦

長浜担当